冬の柊。

柊が薫る。 知らぬ間に来ていたこの季節。 見上げると、緑強いその樹に、 密やかに、にぎやかに 小さな白い花たちが集う。 初冬。 柊の花の薫りが漂う。 強く、柔らかく。 甘く、爽やかに。 冷たく止まった空気に柊が流れる。 その流れにからめとられるように私も止まる。 この止まった時。 …

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旅する花。

咲き誇っている花。 美しく咲くこの花は、拾った枝に咲いた花。 風に折れて、落ちていた枝。 強風であおられ、文字通り、風に引きちぎられて折れていた枝。 持って帰ることが出来ないほどの太い枝。 心がチクリと痛むのを感じながら、さらに手折った小枝。 蕾がぎっしりと付いた花の枝。 風吹きすさぶ戸外から、静寂の暖かさへ入りっ…

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ふわりと粉粧楼

今にも咲きそうな、粉粧楼の姿。 ころんとした中心から、一枚、また一枚と柔らかくほぐれていく姿。 この薄いシルバーピンクを引き立てるのは、艶の無い濃い緑の葉。 隣にはまだまだ先に花となる蕾。 濃い桃色に先を染め、時と光をじっと待つ。 開く前から辺りに漂うのは上品な香り。 ふわりと。 そおっと。 この繊細なはなびらのように、ふわりと、そおっと粉…

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早春の女王ラナンキュラス

「おまえたち、何をうなだれているのだ。背筋を伸ばすがよい。」 「しかし陛下、まだ寒うございます。つい先日まで冷暖房完備のナーサリーにいた身には、この寒さ、辛うございます。」 「寒いのは誰も同じこと。理由にはならぬ。ディモルフォセカよ、背筋を伸ばしなさい。」 「しかし私の出身は南アフリカ。このような寒さには慣れていないのでございます。」 「何を言う、…

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銀木犀の開花

この「花ものがたり」は、柊シリーズ(「柊の香る夜」 「柊が輝く朝」)のスピンオフです。 日曜の朝。 目を覚まし窓を開けると、金木犀の香りが秋の澄んだ空気と共に部屋に流れ込んできた。 幸は大きくその香りを吸いこみ、窓の外を見る。 今年の夏は暑かった。 暦が秋になっても暑い日が続き、金木犀も突然咲いたかのようだった。 駅から少し離れた住宅街のなかに幸の住むアパートがある…

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金木犀の憂鬱

金木犀の香りは嫌いだ。 甘い香りに、何だか息が詰まりそう。 朝、駅に向かう道の途中にある小さな公園の脇を通りながら、恵美子はそう思った。 公園の生け垣の金木犀に、オレンジの小さな花が無数に付いていた。秋なのに蒸し暑い空気の中で、その濃厚な香りがあたり一面に漂っていた。 息が詰まりそう。 まるで、勇樹といるようだ。 勇樹はいつも恵美子を見ている。全身で恵美子を愛そう…

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春の嵐

あと一息 あとほんの僅かな夜を越えれば その木は桜色に染まったことだろう じっと、息をひそめる冬が過ぎ やんわりと春の気配を感じ その蕾をゆるめ、満るときを待つばかり そんな夜吹いた風 木を傾げ枝ををもぎ取る風 春の嵐 薄い桜色の蕾を付けた枝 もぎ取られ 引きずられ 痛めつけられた枝 そっと拾い、挿す

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柊が輝く朝

この「花ものがたり」は、柊の香る夜の続編です。 気が付けば、もう柊が咲く季節だった。 柊の香りが漂う、冷たい空気が満ちてくるこの季節。 甘く澄んだ柊の香りは、花の香りの中で一番好きな香り。 そんな好きな香りが漂うのにもかかわらず、彼女はこの季節が苦手だった。 気が早い街にはクリスマスイルミネーションが灯り、デパートやスイーツの店にクリスマスケーキの予約のリーフも…

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アガパンサスの香り

金曜日、夕方6時。 今日も夕方からぱらぱらと雨が降ってきた。 沙紀は少しいらついて、オフィスの窓から梅雨の空を眺めた。 今夜は雨が降らない予報だった。 だから、久し振りに白のスカートと、先月買ったウエッジソールのパンプスを履いてきた。 なのに、雨。 今夜、会う約束をしている店の場所を思い浮かべる。 あの出口からなら、濡れずに済むかもしれない・・・と。 今夜は久し振りに…

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「プロスペリティ」を今年も。

主張せず、他のバラと調和しながら咲くプロスペリティ。 寡黙なバラ。 この寡黙なバラ、プロスペリティを今年も解き放つ。 囚われている場所から、解き放つ。 柵越しに伸びた枝を、そろそろと、しかし力強く引きよせて、抱きかかえる。 テラスではその香りは影をひそめる。 他のバラのディフューズする香りに圧倒されて。 でも、ここでは香る。 昼に、夜に。 こ…

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タチツボスミレの花束

タチツボスミレ。 と、この場所に初めて来たあの日、弘美から教えてもらった。 高校卒業の春だった。 武史にとってはスミレの名前など、どうでも良かった。ただ、弘美が話す事は全て覚えていたかった。 あの日が、そうして弘美と会う、最後の日のような気がしていたから。 由紀。 あれから時が経ち、今、武史の手をしっかり握るのは、由紀。 「うわ~、すっごぉい。きれ~い!」 そうはしゃぎ、…

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巣ごもりヒヤシンス

つやつやした葉とつぼみ。 ラフイアをあしらうと、まるで、地面の枯れ葉を割って出てきたよう。 もうすぐ春。 コートを脱いで、襟を開けて歩く春。 でも、その前に、もう少しだけ、冬の名残りの陽だまりにたたずんでいたい。 暖かいストールにくるまれ、温かい飲み物を。 窓辺に座り、外の様子を、静かにそっとうかがう。 ヒヤシンスも、そっとくるんで、あたためて。 もうすぐ春。 …

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柊の香る夜

柊は、初冬の夜に、静かに香る。 その柊が香る夜、彼女は彼との別れを確信した。 彼から連絡が来ても、会わない。いや、本当は彼から連絡が来るはずはないのだ。そして、彼女もしない。連絡をしても、うまく理由を付けて、するりとかわされてしまうのは分かっている。分かっていながら、後味の悪い思いを何度したことか。自分が間抜けで愚かに思える。 彼との短い付き合いの中で、かなぐり捨てたプライド、…

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やわらかな暮秋

やわらかな光を受けて、花がゆっくり、ゆっくりと広がっていく。 冬のかけらが、あちこちに。この空気はもうすぐ冬で満たされてしまう。 薄い雲の間からやさしく届く光のなかで、花がほんのりとかがやき、香る。 おだやかな時間。

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ひまわりの迷路

「あー、やってらんねーよ」 翔は、咲き誇るひまわりの足元に、大の字に寝そべった。 汗を吸ったポロシャツは、もうしっかり汚れてしまっただろう。 翔ってばぁ、こんなに汚してぇ。と、きっと里香は嫌がる。 ところどころ白い雲が浮かぶ、真っ青な夏空。 ひまわりがまっすぐに上に向かって、太い茎を伸ばしている。 風が全く無い今日、そよとも動かない葉。なんだか全てが作り物のような気がしてき…

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サンダーソニアが揺れる時

今夜は・・・と、彼女は心を決めていた。 会社を出ると、隣の通りにある小さな花屋に真っ直ぐに向かう。 勇気を出すためのミニブーケをそこで買う為に。 爽やかなブルー、元気の出るオレンジ、そして、白。 花屋を後にして、いつもの道に戻る。 雨が上がり、蒸し暑さが戻った七夕の夕方。 まだ辺りは明るく、会社帰りの人、犬の散歩をする人、待ち合わせに急ぐ人。いつもと変わらぬ風景だった。違うの…

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